米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」

ロシア語通訳の第一人者でありエッセイストの故・米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(2001年)を読みました。

米原さんは日本共産党幹部であった父親のチェコ赴任に伴って1960〜1964年の5年間(米原さんは9〜14歳)、プラハのソビエト学校へ通っていました。校内での共通言語はロシア語。生徒は約50カ国もの違った国から集まった共産党幹部の子どもたち。

当時、米原さんが仲の良かった3人のクラスメート、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカ、ギリシャ人のリッツァとの思い出と、離れ離れになってから31年後に彼女たちを探す旅に出た時の話が書かれています。

共産主義を心から信じていた子どもたちの個性の描写が素晴らしく、勉強が嫌いだったり・運動が苦手だったり・マセていたり、なんだか普通の小学生と同じで親近感が沸きます。
その後の東欧の激動の中でクラスメートたちとは連絡が途絶えたものの、米原さんは心の中でずっと気になっていた3人の消息を訪ねるため中東欧を訪れます。手がかりは転校した時に書いてもらったサイン帳の住所だけ。インターネットも普及していない時代に、31年前の住所から居どころを探す旅はサスペンスのようでもあり、ハラハラしながら読みすすめました。

その旅を追ったドキュメンタリーが1996年にNHKで制作されており、Youtubeで観られます。当時のプラハ、ルーマニアのブカレスト、セルビアのベオグラードの風景が見られます。

当書に登場した人物たちの顔を見られるので、読後に観るととても楽しめます。もしくは、動画を先に見ると本を読みたくなると思います。当書では米原さんがカメラの前では話していない本音も書かれており、より深く社会情勢やナショナリズムを語った内容になっています。

良い本に出会いました。米原さんのことはテレビにコメンテーターとして出ていた頃に見たことがありましたが、エッセイストとしての才能があったことも若くして亡くなったことも知りませんでした。当書があまりに面白かったので、他の作品もいくつかまとめ買いしました。本格的に寒くなってきたので、家にこもって読書の秋を満喫したいと思います。
 

4 Replies to “米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」”

  1. junjusia より:

    はじめまして。
    チェコに近いポーランド某所に住み始め1年になる者です。
    検索がきっかけでこちらのブログを発見し、同時期、似たような境遇(私のパートナーはポー人です)で海外生活を始められた事に親近感を抱き、一気にブログ拝見させて頂きました!
    これからも更新楽しみにしております。

    平地に住んでる盆地生まれ山育ちの私にとって、丘陵のあるチェコは憧れの地…ポー人のパートナーはチェコ語を独学で勉強したチェコびいきで、二人でチェコを訪れては「なんてラブリーなんだ!ビール美味いし!」としょっちゅう話しております。

    まさかの最新エントリーが米原万里さんの著作!実は私も愛読書で、旅に出る度に持ち運んでいるので、文庫の表紙がすっかりくたびれてきております。

    この本に出会ったのは通訳の勉強(スラブ語系とは全く関係ない言語ですが)をかじっていた10年前で、まさか自分が本の舞台となる地域に住むとは夢にも思っておらず、ポーランドに住み始め、こちらの文化歴史を少しづつ知る度に、この本の印象も変化してきてとても面白いです。

    その他の著作も面白いのですが、やはり「嘘つき〜」が一番飽きが来ず、何度も何度も読み返しています。

    その後あの同級生たちはどう生きているのか、20年後の今が気になるところです。
    (ヤスミンカのお父様はご存命らしいことはwikipediaで調べてわかったのですが…)

    1. Noriko より:

      junjusiaさん
      初めまして。コメントありがとうございます!過去ログまで読んで頂いたなんてすごく嬉しいです。
      ご覧になったかもしれませんが、この夏初めてポーランドに行きまして、ショッピングモールがきれい〜!コンビニある〜!と感激しました。隣りの芝は青いみたいなものでしょうか(笑)。
      私は盆地育ちで太陽は山から昇って山へ沈んでいくものだったので、今住んでいるところが見渡す限り草原でかなり新鮮です。

      米原さんが愛読書とは!通訳の勉強されていたのなら、なおさら共感する部分があるのでしょうね!私は遅ればせながら最近初めて読んで、文才とチャーミングな人柄にハマりました。確かに、今自分が中東欧に住んでいるからイメージしやすいところはありますね。これから他の著書を読むのが今一番の楽しみです!
      同級生たちは、健康ならまだ68歳前後のはずですね。ヤスミンカのお父様なんと長生き!1996年当時は身の安全も分からないサラエボで大変な暮らしをされていたのに・・・。

      よければまたブログに遊びに来てくださいね♪

      1. junjusia より:

        わー、ありがたいお言葉ありがとうございます!
        これからも更新楽しみにしていますね。
        勝手ながら、年齢も近いのでとても親近感が♪

        ポーランド、そんなによかったですか!
        確かに、隣の庭の芝はとっても青く見えます。私もです。
        EU加盟後、一気に色んな物が新しくなったそうで、他の西側諸国に比べてなんでも新しい、と相方は申しておりましたので、そのせいかもしれませんね。
        ちなみに私のフラットの目の前もzabkaです(笑)。
        おかげでやや賑やかであるのですが、相方はいつでもビールが買える~と喜んでおります。
        (ビールは独自プロモーションが多くて、スーパーより安かったりします)

        私も盆地育ちなので、太陽は山から山です!
        なんか、後ろに山がないと背中がすーすーしませんか?
        私は山に囲まれたい人なので、後ろが平原だと守られていないような、なんだか落ち着かない感じがします…(笑)

        1. Noriko より:

          チェコよりポーランドの方が西ヨーロッパで見るブランドが多いと思いました。なるほど、EU加盟で色々新しくなったのですね。ポーランドにいると確かにここはEUって感じがしましたが、チェコではあまり思わないですね。マイペースなのでしょうか。
          zabka羨ましいっ!目の前にコンビニがあるなんて、まるで日本じゃないですか。23時まで開いてると便利すぎてついビール買いに行っちゃうのも仕方がありませんね〜。

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