チェコの機能主義都市「ズリーン(Zlín)」 ① /バチャハウス、移動社長室、ホテル・モスクワ

イースター休暇を利用して東モラヴィアの「ズリーン(Zlín)」を訪ねました。
ガイドブックには載らないような街ですが、チェコの他の街には無い景観を持った唯一無二の計画都市です。色々と見てきたので3回に分けてご紹介します。

 

チェコの人に「ズリーンといえば?」と聞くと大半の人が「バチャ(Baťa)」と答えるのではないでしょうか。

この際の「バチャ」は、製靴会社としての「バチャ(Baťa)」であり、その創立者のトマーシュ・バチャ(Tomáš Baťa)のことでもあります。

優れた経営者としてチェコ人にとても人気のあるトマーシュ・バチャ。
バチャは故郷のズリーンで起業し、社員が快適に暮らせることこそ会社の発展に繋がると考え、医療・教育・娯楽・労働など街全体のインフラを充実させ社員の満足度を向上させます。

結果、バチャが1894年に会社を興すまでは人口たった3,000人ほどの小さな街だったズリーンは、1930年代には人口35,000人にまで大きくなりました(現在は約80,000人)。ズリーンは、文字通りバチャと共に成長し、1923年にトマーシュ・バチャはズリーン市の市長にまでなった 街の大功労者です。

トマーシュ・バチャ(左)と、その継弟ヤン・アントニン・バチャの銅像

 

バチャの都市計画

バチャの様々な都市計画の中で代表的なものが、バチャ社員のために建てられた「バチャハウス」。レンガ造り(またはレンガ風のタイル)の戸建てが規則的に並び、職場まで徒歩で通えるロケーションにある住宅街です。名のある建築家を集め、 1912〜1945年の間に2,210戸の住宅が建てられました。その住宅街を歩いてみました。


手前がかつて工場のあったエリア、奥が住宅地


住宅街が作られた当時の写真

遠目に見ると同じデザインの家が並んでいる単調な住宅街に見え、どちらかというとつまらない印象を受けるのですが、実際このエリアに足を踏み入れて見ると遠目から見ていたイメージとは大きく変わり、非常に「感じの良い」住宅街であると考えを改めざるを得ません。

この場所だけを見るとここがチェコだとは気づかないくらいに、漆喰の多いチェコの一般的な住宅街とは外観が違います。レンガ造りのデザインはまるで英国のような雰囲気。しかし、庭にある大きな木や家庭菜園、花や雑貨で飾られたエントランスを見ると確かにチェコのおうちだなぁ、と思うのです。


 
バチャハウスのある地域は景観保護されており、個人の家ではありますが、景観を壊すような外観の変更は認められておらず、リフォームを施す際には市の許可を得なければいけません。壁のレンガの色や大きさ、庭に建てる倉庫のサイズまで規制があります。

いくつかの特に有名な家(ほとんどが個人宅)は市の観光ウェブサイトにリストがあり、所在地や建築家がまとめられていますので、住宅街散策をする際の参考に。


建設当時は家々の間に塀はなかったそうですが、今は生垣などで区切られています。

 

ビルNo.21「ズリーン・スカイスクレーパー」

ズリーンでは、建物の名前を住所の番地と関連づけて番号で呼んでいるのですが、「21番」ビルが展望台の役目も果たす「ズリーン・スカスクレーパー」。
1938年に完成した16階建の建物(写真左)で、当時のチェコスロバキアでは一番、ヨーロッパでも二番目に高いビルだったそうです。第二次世界大戦中に爆撃されたものの、奇跡的に残り、現在は州庁オフィスとして使われています。
 
 
エントランスがいかにもお役所という雰囲気なのでやや入りにくいのですが、誰でも自由に入って構いません。エレベーターで16階に上がると展望テラスがあり、元・工場群や住宅街を一目で見渡すことが出来ます。
 

 
このビルのもう一つの目玉は、動く社長室!エレベーターが社長室になっているという非常に珍しいものです。残念ながらこのビルが完成したのはバチャの死後なので実際に使われることはなかったでそうですが、効率重視のバチャらしいアイデアです。

6×6㎡でエレベーターとしてはかなり大きなサイズ。社長室としては質素ながらも十分のように見えます。エアコン、電話、なんと洗面台まで備わっています。


 
この有名なエレベーターに乗るにはグループのみが申し込めるガイドツアーの事前予約が必要なのですが、ツアーの時間以外は一階に停まっており、自由に見ることが出来ます。ビルの一階玄関を入ってすぐ左側にある「EXPOZICE」と書かれたドアから入った先にあります。

「ズリーン・スカイスクレーパー(Správní budova firmy Baťa č. 21)」
Zlín, třída Tomáše Bati 21
毎日10:00-21:00

 

ホテル・モスクワ(hotel Moskva)

ズリーンを代表するホテル「ホテル・モスクワ」に宿泊しました。というか、観光地では無いズリーンには宿泊施設は多くなく、おそらくズリーンいち部屋数の多く便利な立地のこのホテルが自ずと候補に挙がります。

このホテル・モスクワもバチャの街づくりの一環として1932年に建てられた建築物で、コンベンションセンターを兼ねています。写真中央の高い建物がそう。(この写真は、ズリーン・スカイスクレーパーの屋上から撮りました。)
ちなみにホテル・モスクワの前にある「59」の看板がある建物も、同じく1932年完成の「大映画館(Velké kino)」。建設当時、チェコで一番大きな映画館で、現在はズリーン映画祭の会場として知られています。


 
外観や共有スペースはレトロ感を感じるのに比べて、リフォーム済みの部屋は普通に新しく日本のビジネスホテルのよう。部屋の面積は、チェコのホテルの平均と比べると狭いものの、水周りが新しくベッドは快適で冷蔵庫もあり鍵はカードキーで(これらはチェコでは当たり前ではない)、非常に快適な滞在でした。
 

部屋が街向きであれば、景色も最高。

「ホテル・モスクワ(hotel Moskva)」
2512 náměstí Práce Zlín
http://hotelmoskva.cz


 
ズリーンの紹介、まだまだ次回に続きます!